電子文書(符号データ)にフォントを埋込み、プラットホームに依存しないでインターネット等を介して送受する技術が実用化されました。この運用方法によっては、タイプフェイス/フォントの複製改変が可能になります。このようなことから、知的財産権委員会が「声明書」原案を作成し、常任委員会の決議を経て、1998年11月20日開催の当協会秋期総会で下記の「声明書」を発表し、関係分野の方々に提唱しました。


電子ドキュメントデータへのフォント埋込み機能に対する タイプフェイス/
フォントの権利保護に関する声明書

平成10年11月20日 日本タイポグラフィ協会


電子ドキュメントのレイアウトを完全に維持することのできるPDF(ポータブルドキュメントフォーマット)は、インターネットの一般化に伴い急速に普及しております。このPDFを生成するソフトウェアでは日本語フォントも「フォントの埋め込み(EmbeddedFont)」が可能です(注1)。このフォントの埋め込みによりレイアウトの完全な維持はもとより、指定したタイプフェイス(書体デザイン)そのものも完全に維持され、フォントを有しない受け取り側ユーザが当該書体による表示や印刷もできます。さらにCD-ROM、通信回線等を経由して一時に多数のユーザに配信することができます。MacやWindows等のOSの違い、日本語版と英語版の違いも問題にならなくなります。しかも、日本独自の問題である外字問題もフォントの埋め込みにより解決できます。この様な理由からユーザの立場においては、フォントの埋め込みは非常に有効かつ利便性が高い技術革新と言えます。また、タイプフェィスデザイナーおよびフォントベンダーにとっても、タイプフェィス/フォント市場と高品質タイポグラフィ需要の拡大を生む可能性があります。

しかし、タイプフェイスの権利保護の観点からは、次のような問題点が生じる可能性があります(注2)。


  • (1)配布されたPDFに埋め込まれたフォントセットのプロテクトを外して使用し、編集・校正することは、新たな文字組みを行うことになり、タイプフェイスの複製行為が行われることを意味します。
  • (2)埋め込まれたフォントセットは、タイプフェイスを忠実に再現したものですが、この複製・改変・二次的使用がより一層簡単となります。
    従って、フォント埋め込みは、従来から定着していた日本国内および諸外国のタイプフェイスやフォントの権利に関する契約・商慣行を乱す可能性があります。
    そこで、タイプフェイスおよびフォントの法的保護活動を30年間に亘って活動し、「望ましいタイプフェイスの法的保護のあり方(添付資料参照)」を制定している当協会の立場から本声明書を発表し、関係各分野の方々に下記事項の遵守を提唱いたします。


1.ユーザーの皆様へ

  • (1)フォント埋め込み機能を利用するに際して、「埋め込んだフォントを用いて編集・校正などの新たな文字組を行う行為」等、従来から日本国内で定着しているタイプフェイスおよびフォントの権利に関する契約・商慣行(添付資料参照)を乱すような使用方法はしないこと。
  • (2)フォント埋め込みを不可としているタイプフェイス権利者またはフォントベンダーのフォントは、フォントの埋め込みをしないこと。
  • (3)フォントが埋め込まれたPDFを配布するに際して、当該フォントの使用許諾契約書に従うこと。フォントの埋め込みについて明記されていない場合には、当該タイプフェイスの権利者やフォントベンダーに問い合わせた後にフォント埋め込み機能を使用すること。

2.フォント埋め込み機能を有するプログラム供給者の皆様へ

  • (1)「埋め込んだフォントを用いて編集・校正などの新たな文字組を行う行為」等、従来から日本国内で定着しているタイプフェイスおよびフォントの権利に関する契約・商  慣行を乱すような使用方法はできないようにすること。
  • (2)フォントデータ内にフォント埋め込みを不可としているフォントについては、埋め込み、蓄積、校正など複製行為ができないようにすること。
  • (3)フォントデータ内にフォント埋め込みが可であるか不可であるか明示されていないフォントの場合は、フォントベンダーよりこの可否に関する文書提出を依頼し、可とするフォントに対してのみこの機能を使用できるようにすること。
  • (4)前記1項の「ユーザの皆様へ」の①から③の留意事項の内容をアプリケーションプログラムの製品パッケージまたは取扱説明書等に記載すること。
  • (5)上記①項記載事項を遵守できないアプリケーションプログラムを販売する時には、権利者が受諾できる条件でデジタルAV録音録画機器メーカーがアナログからデジタル方式に変化した時の様な対応策(課金又は補償金制度等の採用)や電子商取引の採用等を必ず配慮すること。

3.タイプフェイスデザイナおよびフォントベンダー等権利者の皆様へ

  • (1)フォント埋め込み機能によりタイプフェイス/フォントの権利侵害の恐れが考えられる場合には、従来の契約条件を見直して対策を講ずるような配慮が望ましい。
  • (2)フォント埋め込み機能を可とする場合には、その具体的かつ共通の使用許諾条件については、別途に当協会が定める「フォント組み込み機能における使用許諾書モデル」を準用することが望ましい。
  • (3)タイプフェイスデザイナはフォント埋め込みに関する使用許諾条件をフォントベンダーに要請し、フォントベンダーはこの内容を含む使用許諾契約書をパッケージ製品に同梱することが望ましい。
以上

(注1)日本語フォントのフォントの埋め込みは、IBMの「DocuCom」及びダイナラブジャパン社の「DynaDoc」等において、実施できます。

(注2)この問題点は、当協会が平成9年11月に文化庁著作権課長に提出した「ネットワーク時代のタイプフェイスの法的保護に関する要望書」の中にも記載しています。




 
 
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