Japan Typography Association

桑山弥三郎

山梨県大泉村にあるペンションの看板。和製のヨシュアとカレブが大ブドウの房を運んでいる。
山梨県大泉村にあるペンションの看板。和製のヨシュアとカレブが大ブドウの房を運んでいる。

繁栄と喜びのブドウ

ブドウは世界で最も多く生産されている果実で、その3/4がブドウ酒になる。生産の多い国はフランスとイタリアで、日本では山梨県である。ヨーロッパの看板にはブドウを表わしたものが多い。居酒屋、酒倉、レストランに特に好んで使われている。誰にもブドウとブドウ酒は直接結びつき、それを販売する店に使われることは文字が読めなくても判りやすい看板として中世から広く用いられてきた。ブドウは房に多くの実を付ける特徴があり、繁栄、多産、喜び、歓待などを表わすが、良くない意味には酩酊、欲望がある。

看板の中には上の写真のように、二人が大ブドウの房を棒に通してかつぐものが見られが、これを「ブドウかつぎ」と呼ぶ。これはいつ、誰が、何のためにしているのだろうか。この源泉はモーセの時代、西暦前1500年頃の出来事だ。モーセはイスラエルの民をひきつれて約束の地のカナンの入口に宿営した。モーセは神の指示を受けて、その地を探らせるために12人のスパイを送り込んだ。彼らは40日間に何百キロも偵察した。カナンの豊かな実りを携えて帰ってきた。12人のスパイの報告が異なった。そこを聖書、民数記から読んでみよう。「エシュコルの奔流の谷に来た時,彼らはそこで,ぶどう一房のついた若枝を切り取った。そして,それを横棒に掛け,二人で運んで行った。また,幾らかのざくろといちじくも同じようにした。…それから彼に報告してこう言った。『わたしたちはあなたから遣わされた土地に入りました。それはまさしく乳と蜜の流れる所であり,これがその実りです。ですが,実際のところ,その地に住む民は強く,防備を施したその諸都市は非常に大きいのです。』…その時カレブは民をモーセの前で静まらせようとし,つづいてこう言った。『すぐに上って行きましょう。わたしたちは必ずそれを手に入れることになります。間違いなくそれに打ち勝てるのです』。

しかし彼と一緒に上って行った者たちはこう言った。『その民に攻め上って行くことはできない。彼らはわたしたちより強い』。そうして彼らは,自分たちが探ってきた土地についてイスラエルの子らにあれこれと悪い報告をしてこう言った。『その土地は,様子を探るために通ってみたが,そこに住む者を食い尽くす土地だ。わたしたちがその中で見た民は並外れて大きな者たちばかりだ。』」(民数記13:23,27,28,30-32 新世界訳)神がイスラエルの民たちに与えると約束した豊かな土地、その証拠としてヨシュアとカレブは大房のブドウとざくろといちじくを持ち帰る。この地方では約20kgの大房が見られるという。シンボルや看板にはざくろといちじくは省略されることが多い。

イスラエル国内にはヨシュアとカレブはシンボルマークとして多く使用されている。この二人の働く様子は東洋に日本でも使われているので驚くが、使用者がこの出来事を理解しているのだろうか。

日本の紋章にブドウは数種ある。ブドウは西アジア原産で日本には奈良時代に工芸品に施された文様として輸入された。それが当時の貴族に愛好されて家紋に転化されたという。西洋の紋章にはブドウはブドウ酒としてまた薬用として多用され身近にあったため紋章のバリエーションも多い。

ウイリアム・モリス(1834-94)は私家版印刷工房「ケルムスコット」を開設し、53点66冊を制作した。代表作「チョーサー著作集」を含め多くの本にブドウの縁飾りを用いた。モリスは壁紙にもブドウを多様するなど、つるで連続する模様を愛用した。

PDFページダウンロード
イスラエル国営のブドウ酒製造所 イスラエル国営の
ブドウ酒製造所
ぶどうかつぎが登場するシンボルマーク(イスラエル)ぶどうかつぎが登場する
シンボルマーク
(イスラエル)
イスラエル観光庁のシンボルマークイスラエル観光庁の
シンボルマーク
牛木理一氏のマイ・ワインのラベル 牛木理一氏の
マイ・ワインのラベル
向かい合ったかつぎ手 山梨勝沼にある葡萄酒製造会社向かい合ったかつぎ手
山梨勝沼にある
葡萄酒製造会社
ウイリアム・モリスはブドウ文様を書籍や壁紙に好んで使った(部分)ウイリアム・モリスは
ブドウ文様を書籍や壁紙に好んで使った(部分)
フランスのブドウ酒ラベル フランスの
ブドウ酒ラベル
フランスのブドウ酒ラベル1927 フランスの
ブドウ酒ラベル 1927

トップページヘ戻る

このページのトップへ