「百獣の王」と呼ばれるライオンは、動物の中でも気品と風格があり、威厳と貫禄に満ちている。大きな顔にふさふさとしたたてがみ、力強くたくましい四つ脚。後部が細く前部が大きいので、座った時の形が美しい。長い尾の先は毛のふさがついている。体全体にも毛がはえていて毛先が黒くなっているため、体色は変わって見える。体長は180~240センチ、尾は60~90センチあるという。雌ライオンは雄より少し小さく、たてがみはないのが特徴。
古代にはケープタウンから北アフリカ、地中海南部からインドまでの地域。ギリシャ、エジプト、アッシリア、バビロニア、ペルシャなど古代繁栄した地域にライオンが生息していた。ベルリンのペルガモン博物館にバビロンの行列通りが再現されている。そこにはライオンのレリーフがある。ルーブル美術館には元ペルシア王都にあったグリフィンがある。色彩レンガで表現された動物は、ライオンの体に角や羽があり、架空の動物になっている。ベニスの象徴は羽のあるライオンである。各地でライオンは身近な動物であったにちがいない。
西暦前6世紀のバビロンでダニエルという預言者がライオンの坑に投げ込まれた記述がある。それは処刑を意味している。ダリウス王とダニエルの会話は『王は声を高めてダニエルに言うのであった、「ダニエル、生ける神の僕よ、あなたが常に仕えているあなたの神は、あなたをライオンから救い出すことができたか」。「私の神はご自分の使いを送って、ライオンの口をふさがれましたので、これらが私を滅ぼすことはありませんでした」。』(ダニエル6:20,22)王は非常に喜び、ダニエルを坑の中から引き上げるように命じた。バビロンはライオンのほか野生動物を集めた動物園を持っていたことが、古代の碑文で明らかである。
ローマ時代、円形闘技場がいくつか建てられ、毎日のように出し物を変え、観客は珍しい見せ物ほど喜んだ。ライフ人間世界史ローマ帝国によると「ローマの闘技場では、数えきれないほどの野獣が引き出され、殺された。その数はしばしば膨大なものになった。わずか1日に5000匹もの動物が殺されることもあった。闘技用の動物を捕らえるために猟師たちは国中駆けまわってライオン、トラ、ヒョウ、野牛、カバ、サイ、象などを狩りたてた」。
ライオンは他の動物と比較にならないほど多く、国家、家、団体のシンボルになっている。紋章は、12世紀の十字軍の遠征以来、他者と区別できるように採用されたのが始まりといわれている。騎士の勇敢さを表わすシンボルとしてライオンは好んで旗や楯に描かれた。
日本の紋章にはライオンはない。染物や工芸品の模様には獅子として登場する。獅子は西アジアと欧州から伝わったライオンのことである。イノシシと区別するために唐獅子と呼ばれた。牡丹と組み合わされ「唐獅子牡丹」を生み出している。
国には国旗の他、国章がある。日本で例えれば、日の丸と菊の紋章がある。世界で最も多用されている国章のモチーフはライオンである。権威と強さが好まれた。イギリス、スペイン、オランダ、ベルギー、カナダ、フィンランド、デンマークなど40を越える国が国のシンボルとしてライオンを採用している。中にはライオンの生息地でない国も多い。百獣の王と呼ばれる躍動ある行動と、地に響くほえ声、たてがみのある勇ましい姿などが好まれるのだろう。
都市にはライオンをシンボルとした都市章もある。イギリス、フランス、スペイン、旧チェコスロヴァキアなどに多い。