
私が子どもの時、近所に寺があり、そこで遊んでいた。その寺の裏に池があり、シマヘビがいた。ある日、悪童たちがその蛇を捕まえ、ネズミ捕りのかごの中に入れた。次にカエルを捕まえ、同じかごに入れた。その狭いかごの中で、二匹は長い間じっとしていた。ようやく日が傾いてきた頃に、蛇が逃げ回るカエルを捕まえて、飲み込み始めた。時が過ぎるのを忘れてそれを見ていた。当時、蛇は身近にいて、子どもたちにとっては珍しい生き物ではなかった。
昔から蛇はシンボルに登場する。その例を紹介しよう。旧約聖書に出てくるモーセが、奴隷状態にあった大群衆を引き連れて、約束の地に向けてエジプトを脱出したのが、西暦前1513年頃。その後、民が荒野をさまよった時に起きた出来事を、聖書の民数記からみてみよう。
「彼らがホル山からの旅を続け,紅海の道を通ってエドムの地をう回していた時に,民の魂はその道のためにすっかり疲れるようになった。そして民は神とモーセに対してしきりに言い逆らうのであった。『どうしてあなた方はわたしたちをエジプトから連れ出して来て荒野で死なせるのか。パンも水もないではないか。わたしたちの魂はこの卑しむべきパンにうんざりした』。それでエホバ(神)は民の中に毒蛇を送り,それらが民を次々にかんだため,イスラエルの多くの民が死んだ。
ついに民はモーセのところに来て,こう言った。『わたしたちは罪をおかしました。エホバに対し,またあなたに対して言い逆らったりしたからです。これらの蛇をわたしたちから取り除いてくださるよう,エホバに執り成しをしてください』。それでモーセは民のために執り成しを始めた。するとエホバはモーセにこう言われた。『あなたのために火のへびを造り,それを旗ざおの上に取り付けよ。そして,だれでもかまれたなら,必ずこれを見,それによって生き長らえるのである』。モーセは直ちに銅の蛇を造り,それを旗ざおの上に取り付けた。すると,蛇が人をかんだ場合でも,その銅の蛇を見つめると,その人は生き長らえるのであった。」(民数記21:4-9)
近年、新型インフルエンザの世界的な大流行が迫っていることに対してWHO(世界保健機関)は危機感をつのらせている。日本でも小さな子どもが新型インフルエンザで死亡している。現在ではワクチンの不足が問題になり、多くの論議を醸し出している。ジュネーブに本部のあるWHOのシンボルは、モーセが作った蛇の形態に地球儀、国連のオリーブを付け加えたものである。
ギリシャの近代医学の基礎を作ったといわれるアスクレピオスの医学校は、宗教施設と休息の医療であったとされている。処方は、投薬などを重視したものであった。患者が要求しても毒薬を使用せず、病人の延命治療に専念したという。設備は、ローマ風呂などの遺跡が今日でも残されていて、床暖房などがこの時代にあったといわれている。ここにギリシャの全国の若者の優秀者が集められていたという。蛇のイメージは、薬局、医学の他に、医療関係などに多い。ローマ時代になると商業、学問でも使用される。